静岡地方裁判所 昭和24年(行)20号 判決
原告 勅許家元正四位菊坡安倍司家宗教法人皇道治教陽陰寮日本神宮司庁 外二名
被告 磐田税務署長
一、主 文
原告等の訴を却下する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
二、事 実
第一、原告等の請求の趣旨及び原因
(一) 請求の趣旨
原告は被告が昭和二十四年八月九日
1 原告宗教法人皇道治教陽陰寮日本司廳に対して爲した取引高税三千三百九十八円罰金六万七千九百六十円、処分費八十三円合計七万千四百四十一円の附加処分
2 原告宗教法人懦学治教信徒購買販賣利用組合本廳に対して爲した取引高税四千三百十八円罰金八万四千三百十円、処分費八十三円合計金八万八千六百十円の附加処分
3 原告宗教法人治教大本遠州別院に対して爲した取引高税一万九千八百六十一円、罰金三十九万七千二百二十円、処分費八十三円合計金四十一万七千百六十四円の附加処分
の各無効なることを確認する。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めた。
(二) 請求原因
被告は原告等に対し昭和二十四年八月九日付を以てそれぞれ請求の趣旨記載のような租税の賦課並に之に附帶する処分をなして來たが、原告等はいずれも連合国最高司令官より発せられた覚書に基いて日本政府より発令せられた宗教法人令により登記した宗教法人であり、宗教法人に対しては課税すべきものでないから、原告等の被告に対する右処分はいずれも無効であると言はなければならないから、其の無効確認を求めるものであると述べ、尚被告主張のように取引高税を納付した事実は認めると附陳した。
第二、被告の答弁
被告指定代理人は先づ原告等の租税賦課処分の無効確認を求める部分については訴を却下するとの判決を求め、次の通り陳述した。
税務署長が間接国税犯則者に対し通告処分をするときは通常それと同時に又はそれよりやや遅れて租税賦課処分としての納税告知書を送達しているが、本件のような取引高税は申告納税であるから、被告が原告等に対し昭和二十四年八月九日通告書(通告処分に関する書面)を送達した所、同月十日又は十一日原告等は申告納税したというのが事実の経過であつて、その間に租税の賦課処分と認めるべき何等の処分もない。從つて原告等の租税賦課処分の無効確認を求める部分は訴訟の対象を欠く不適法な訴として却下さるべきものである。
次に被告及被告指定代理人は原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とするとの判決を求め、答弁として原告等が宗教法人令に基いて登記された法人であることは認めるが、被告のなした通告処分は刑事司法手続の一環としての処分であるから、もし通告処分に不満があるならば、当該通告処分をした税務署長の告発に基き檢察官の公訴の提起があつた場合にその刑事訴訟手続に於てのみ救済を求めることが出來るものである。通告処分はいはば準司法処分であつて、通告処分があつたときは公訴の時効が中断し、犯則者が通告の趣旨に從つて履行したときは同一事件につき公訴の提起を受けないし、犯則者が通告を受けた日より法定の期間内に通告の趣旨に從つて履行しないときは税務署長は告発の手続をしなければならない等の司法上の効果を生ずるにすぎず、通常の行政処分のように国民の権利義務に具体的な法律上の効果を及ぼすものではないから、通告処分は税務署長によつてなされる場合と雖も本來司法作用に属するもので、性質上行政事件訴訟特例法は適用されないのであつて、行政訴訟によつて救済を求めるべき資格のある処分ではない。從つて原告等の通告処分の無効確認を求める部分は権利保護の要件を欠くから請求は棄却さるべきものであると述べた。(立証省略)
三、理 由
原告等の被告に対する主張は要するに、課税すべきでない宗教法人である原告等に対する被告の各取引高税の賦課処分並に之に伴う附帶処分の無効の確認を求めているのであるが、原告等の言う附帶処分とは被告の原告等に対する通告処分であることは弁論の全趣旨に照らして明かである。以下職権を以て通告処分の性質及び本件取引高税の賦課処分の有無について判断する。
第一、通告処分の性質について
通告処分は、国税局長又は税務署長が間接国税に関する犯則事件の調査によつて犯則の心証を得たときは罰金又は科料に相当する金額を犯則者に納付すべきことを通知するものであり、之を納付すると否とは通告せられた者の自由であつて、納付を強制する手段はない。そして通告がなされたときは公訴の時効は中断せられ、法定の期間内に通告の趣旨を履行したときは告発を免がれる等の効果を生ずるもので、もし通告履行の期限を過ぎても通告が履行されないときは、税務署長又は国税局長は告発の手続を行い其の後は通常の刑事手続によつて事件の審理が進められるものであつて、すなわち通告処分は刑事手続の一環としてなされるもので原告の権利義務には直接何等具体的な変更を來さしめる法律上の効果を及ぼすものではないから、行政処分の無効確認訴訟の対象にはならないものと言うべきである。
第二、賦課処分の有無について
租税の賦課処分とは法令の定める所に從つて抽象的な納税義務を具体化する行政行爲であるが、課税手続には斯る賦課徴收の手続によるものの外に申告納税制によるものがある。
本件取引高税について果して租税の賦課処分があつたがどうかを考えて見るに、取引高税はいわゆる申告納税であつて、課税標準の決定が納税義務者自身によつて行われ、その課税標準について納税義務者自ら税額を算して自発的に納税するものであつて租税の賦課処分という行政行爲を入れる余地はないものと言わなければならない。成立に爭いない甲第二号証の一、二は納付書であり被告が原告等に対し取引高税の賦課処分をしたとの証左とすることは出來ない。結局本件取引高税については租税の賦課処分は存在しないものと認定するの外はない。
第三、結論
以上によつて明かであるように原告等の被告に対する通告処分の無効確認を求める部分については訴訟の目的とすることが出來ないものをその目的としているものであり、また租税賦課処分の無効確認を求める部分については当初から存在しない処分を目的としているものであり、いずれも行政訴訟の対象たる行政処分を欠くから不適法として却下すべきものと認め、行政事件訴訟特例法第一條民事訴訟法第八十九條第九十五條を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 戸塚敬造 岡田辰雄 大沢博)